私達が日常的に使う箸、あまりにも日常過ぎて考えたこともなかった。
『古事記』には高天原を追放されたスサノオが、出雲国の肥河の上流の鳥髪の地(船通山)に天降る。すると、川上から箸が流れてきたので、人が住んでいるだろうと考え川をさかのぼると、娘と老夫婦が泣いている。聞けばヤマタノオロチに食べられるのを悲しんでいるのだという。
箸は昔から日本人の生活に必須の道具であった。日頃、必需品でありながら箸にまつわる民俗などあまり関心がない。しかし、この中に古い日本民俗の心が込められているのである。
新潟市で開かれた新潟県民俗学会の総会の席で南魚沼市の池田亨氏が「箸の素材とお粥の食文化」と題して講演された。それによると箸は神聖なものであり、捨てるときは折ってから捨てないと鬼が使うといわれている。この箸の材料は栗の木、タニウツギの木、ヌルデの木などに限られていた。中国の箸は太くて長い箸を、朝鮮半島では先が尖っていない。
めでたいときに使う箸、そして骨拾いにも長い箸を使った。マナバシ(別名はらみ箸)といわれる長い箸は、飯が炊きあがると蓋を取ってご飯を蒸す道具として使われた。
一方正月に歳神様にお供えする習慣があった。魚沼地方の古い文献に出てくる。正月13日夜の仕事にこのマナバシの木の中心を膨らませ箸を作り、神様にお供えする。これを15日には、その箸で食事を摂るという。
粥には、米の量を減らす目的だけでなく、子孫繁栄の願いが込められているといわれる。
箸や粥に込められた人々の思いを教えられた。(ひこぜん)
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