長岡民話の会が伝説集を発行しました。
長岡民話の会 青柳 保子
信濃川が悠々と丘陵の問を流れ、はるかに望む雄大な山々、西の峠の向こうに塩の香りが漂うこの土地に、太古から人々が暮らしてきた。そこには、奇妙な岩、不気味な沼、時には災害や大事件など、人々が「どうして」「なぜ」と思うような存在や出来事が身のまわりに沢山あつたろう。それら「どうして」を何とか理解し、納得しようと考えた「そのわけ」が、様々な伝説を生み出したのではないだろうか。
また世の事実を記録してゆくものが歴史であるなら、伝説は事実への人々の想いであろう。人の世の出来事に感応して人々が抱いた想いの集大成である。人の心とは何だろうと考えるとき、過去に人々がこんな風に思いを抱いた、という事例は、貴重なものであり、限りない興味をそそられる。
過去には身の回りの山川草木、出来事や災害にさえ「いわく」や「言われ」という解説や物語が溢れていたことがうかがわれるが、それらは現在、加速度的に失われてきている。
今回「長岡民話の会」が伝説集を編纂するきっかけとなったのは、せめて今、長岡市域にある伝説だけでもできるだけ多く残したい、という気持ちであったが、その作業は先人の皆様が採集・文字化されたものを引き写すだけになるかも、という予感を抱いた。そこで各地域の民話の会会員が聞いたことのあるもの、または知っているものなど、いわば生きている伝説を持ち寄ってみた。編集に当たり、地域の偏りを避け、地域の特徴を重視し、類話を整理し、原話の尊重を心がけた。
また伝説は語り継がれるもの、土地の言葉で語られるものであって欲しい、という私たちの願いをかなえるべく、文体は文章体ではなく、そのまま語りとなるよう配慮した。
また伝説の特徴として、何かしらゆかりの場所、残された品、土地の人が建てた記念碑などを伴うものなので、そうしたゆかりの残る伝説を一応の基準とした。
異説、他説もあるのが伝説である。口絵の地図を参考に、自ら現地探訪なども試みていただき、これをきっかけにこの地域への興味、愛情に目覚め、あなたの心が感応した伝説を語るなどしていただけると、楽しいと思う。それが私たちの願いであり、喜びである。
平成二十九年七月三十一日
《長岡地域》 | 八石山の豆の木 |
稲垣家の槍 | 《越路地域》 |
農夫名兵衛の新田開拓 | 田掻き観音 |
苧引型兜城の謂れ | 五ッ塚地蔵 |
牧野忠辰公と十分杯 | 《与板地域》 |
白狗の碑 | 大坂屋の嫁 |
百間堤 | 幻の二箇村 |
乳銀杏と御陵 | 《寺泊地域》 |
筒場の長者 | 八百比丘尼 |
妙徳院物語 | 口開け石 |
赤池明神 | 横崎山の鹿蔵キツネ |
妙竜神社の謂れ | 《三島地域》 |
《川口地域》 | 乙寺の猿 |
泥障(あおり)様の由来 | コラム 二匹の猿の物語 |
境争いと一つ目小僧 | 仁王様の膝つき池 |
《小国地域》 | 《和島地域》 |
八石山の弥三郎婆さ | 塩入峠妙法の石 |
長岡民話の会・顧問 高橋 実
柳田国男は、昔話は動物の如く、伝説は植物の如くとその違いを次のように述べる。
「昔話は方々飛び歩くからどこにいっても同じ姿を見掛けることができるが、伝説はある一つの土地に根を生やして常に成長していくものである。だから雀や頬白はどこにいっでも皆同じ顔をしているが、梅椿は一本々々枝ぶりが違っているので見覚えがある。
可愛い昔話の小鳥たちの多くは伝説の森の中や叢(くさむら)の中で巣立ち、同時に薫りの高いいろいろな伝説の種や花粉を遠くまで運んでいく。」と言うのである、
たしかに昔話は動物のように暖かい国にも寒い国にも伝わり、すこしずつ形を変えているがどこでも似たような話がある。それに対して伝説はある特定の地名や人名に結びつき、いかにも真実のように語り伝えられる。その伝説の源流は神話であるとされ、神話が祭祀において語られなくなった時に、信じられる部分が伝説となったといわれている。しかし、その伝説も広い目で見てゆくと、全国に似たような話がたくさんあり、その伝説がある特定の地域に伝わる伝説とはいいがたい。
であるから運ばれていった種子や花粉はそのところで発芽して成長したり、そこのところの雄しべに受粉されて実を結び、その実が発芽して前とは少し姿の変わった民話となって成長していくのだと、言うことであろう。
民俗学辞典で伝説と昔話の違いを上げれば、次の三点である。
1、伝説は真実にあったと信じられてきたのに対し、昔話とは真実のものとは言えず虚構の含まれているものとして叙述されてきた。
2、伝説は特定の時代、人物、地域と結びつき事物の証拠として伝えるのに対し、昔話は、一般的、不確定の時代、人物として叙述される
3、伝説は叙述には一定の形式をもたず、様々な方法によって、真実性を主張する。
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